本章では2つ以上不斉炭素原予を持つ鎖式化合物の立体配置を扱う。このようた化合物には立体配置の異なる異性体が何個存在するのか、それらはFischer投影図やNewman投影図ではどのように表現されるのか、R,S命名法では各立体配置はどのように表わされるかを理解する。またこれらの化合物の基本となっている糖類について詳しく扱う。
第六章 酒石酸
六章の目標
本章を終えると、以下のことができるようになる。
- 不斉炭素原子n個を持つ分子の立体異性体数は2n個であるが、その数は対称性によって変動し、光学不活性たメソ形や擬不斉が現われることを理解する。
- 不斉炭素原子を2個持つ分子の立体配置をエリトロ形とトレオ形に、ただし対称性のある場合には活性形と光学不活性なメソ形に分類する。
- 炭素数3~6の単糖類のうち、特にアルドースの立体異性体をD,Lの系列に分け、さらに各不斉炭素原子をR,S命名法で命名する。
- 不斉炭素原子を2つ以上持つ分子のFischer投影図を書くときの約束を理解し、これらの化合物における立体配置と立体配座の関連を知る。
新しい用語と概念
以下の用語の半分以上の内容が頭に浮かぶようであれば、直ちに問題に取り組んでよい。
そうでない場合は、身に付いていない用語をクリックして見直してから問題に取り組もう。
エリトロ形 | トレオ形 | メソ形 |
糖類のD,L系列 | 擬不斉 | ジアステレオマー |
Summary
S6.1 トレオ形、エリトロ形
- 不斉原子が2個ある化合物において
- トレオ形 : 同一リガンドがFischer投影図で反対側。
- エリトロ形 : 同一リガンドがFischer投影図で同じ側。
図6.1
S6.2 メソ形
- 分子内に対称面があるため不活性となる立体異性。
図6.2
S6.3 立体配置と立体配座
- 不斉炭素原子が2つ以上ある化合物のFischer投影図は、分子の安定な配座を表わしているわけではない。実際にはリガンド間反発が最小なねじれ形配座をとっている。しかし単結合のまわりの回転によって立体配置に変化はない。
S6.4 D,L系列(糖類)
- カルボニル基から最も遠い不斉炭素原子に関して
- D系列:D(十)-グリセルアルデヒドと同じもの。
- L系列:L(一)-グリ千ルアルデヒドと同じもの。
図6.3
S6.5 擬不斉
- 2つ異なるキラルでないリガンドと構造は等しいが、立体配置の異なる2個のキラルなリガンドが結合している炭素原子を擬不斉炭素原子という。
- 擬不斉炭素原子についている同じ1構造の2つのキラルな基は、R配置のほうがS配置よりも優先順位が高い。
S6.6 ジアステレオマー (diastereomer)
- 互いにエナンチオマーでない立体異性体同士を互いにジアステレオマーであるという。不斉炭素原子が2個以上ある分子には互いにジアステレオマーの関係にある立体異性体が存在する。下の例では、たとえば、「トレオースはエリトロースのジアステレオマーである」のようにいう。
図6.4
- アルドヘキソースのD-系列の8種類の異性体も互いにジアステレオマーの関係にある。
図6.5
- 二重結合のまわりのE、Z異性体も互いにジアステレオマーの関係にあるといえる(第三章)。