第五章 乳酸
ねらい
不斉炭素原子1個を持つ化合物には1対のエナンチオマーが存在しうることを理解した上で、それを光学活性現象と結びつける。また、立体配置を紙面に表わす方法としてFischer投影図を利用できるようにする。
分子を直接観察しないかぎり、相対立体配置を知りうるのみであるが、グリセルアルデヒドを基準としたDL表示はそれなりに首尾一貫した体系であることを学ぶ。さらに絶対立体配置が知られるようになった時点で導入されたRS表示の原則を学び、既に用いてきた順位規則やDL表示との関連を理解する。
五章の目標
本章を終えると、以下のことができるようになる。
- キラルな分子、特に不斉炭素原子を持つ分子を見分ける。
- ラセミ形を光学分割して光学活性なエナンチオマーに分離する。
- 不斉炭素原子1個を持つ光学活性分子のFischer投影図を書き、またそのFischer投影図を同等な別のFischer投影図に変換する。
- 不斉炭素原子1個を持つ光学活性分子をグリセルアルデヒドの立体配置と比較してD型、L型に分類、命名する。
- 上記化合物に順位規則を適用して、その絶対立体配置をR・S型に分類、命名する。
新しい用語と概念
以下の用語の半分以上の内容が頭に浮かぶようであれば、直ちに問題に取り組んでよい。
問題へ
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▶ 第五章 解説
Summary
S5.1 光学活性
- 光学活性物質 : 溶液中においても偏光面を回転させることのできる物質。
- 右旋性 : 偏光面を右(時計)方向に回転させる性質。
- 左旋性 : 偏光面を左(反時計)方向に回転させる性質。
S5.2 比旋光度
- 比旋光度 : 旋光性の目安。(+)は右旋性、(-)は左旋性を表わす。
- エナンチオマー対の比旋光度 : 絶対値は等しく、符号が反対。
5.1 光学活性へ
S5.3 キラリティ
- キラルな分子 : それ自身の鏡像に重ね合せることのできない分子。
- アキラルな分子 : キラルでない分子。
S5.4 キラリティの種類
- 中心性キラリティ : (不斉炭素原子)
- 軸性キラリティ
- 面性キラリティ
5.2 キラリティへ
S5.5 ラセミ体と光学分割
- ラセミ体 : エナンチオマーの1:1混合物。光学活性を示さない。
- 光学分割 : ラセミ体を各エナンチオマーに分離すること。
5.3 ラセミ体と光学分割へ
S5.6 Fischer投影図の規則
- 交換 : 偶数(2n回)の交換は同一物、奇数(2n-1回)の交換はエナンチオマーを与える。ただしnは整数。
- 回転 : 時計方向2nx(π/2)の回転は同一物、(2n-1)x(π/2)の回転はエナンチオマーを与える。ただしnは整数。
5.4 Fischer投影図へ
S5.7 R・S命名法
不斉炭素原子をリガンドsの反対側から見たとき
- R配置 : 3つのリガンドL-M-Sが時計まわりに並んでいるもの。
- S配置 : 3つのリガンドL-M-Sが反時計まわりに並んでいるもの。
図5.1
S5.8 R・Sの判別法
- Fischer投影図から : リガンドsが下向きになるように変換し、L→M→Sをたどるとき、時計まわりならR、反時計まわりならS配置。
- くさび図、分子模型等から : リガンドsをひじで、Lを中指、Mを人さし指、Sを親指としたとき、右手に一致すればR、左手に一致すればS配置。
5.6 絶対立体配置 ―R・S命名法― へ