4.4 置換シクロヘキサンの異性体数

4.4 置換シクロヘキサンの異性体数

環の反転による構造変化を無視する、言い換えると環の反転によって平均化したとみなすと、メチルシクロヘキサンの異性体数は1となる。しかし反転による構造変化を認めれば、異性体数はエカトリアル形およびアキシアル形の2種となる。このように、置換シクロヘキサンの異性体数は、環の反転による“平均化”を考慮するか否かで違ってくる。

シクロヘキサン環の反転による平均化を認めれば、シクロヘキサンのいす形、舟形を考える必要はなく、単に平面分子と考えても同じことである。メチルシクロヘキサンは図4.4.1-25とも26とも書ける。面の上下を区別することは、一方をアキシアル方向、他方をエカトリアル方向と見なすことであり、平均化を認めない考え方である。


図4.4.1

平均化を認めると、1,1-ジメチルシクロヘキサンは1種(図4.4.2-27)、1,2-ジメチルシクロヘキサンには2種(28)と(29)の異性体があることになる。1,2-ジメチル体のうちメチル基が同じ側にある28がシス異性体、反対側にあるのがトランス異性体である。


図4.4.2

しかしながら、環の反転による平均化を認めないと、すなわちメチルシクロヘキサンにおいて2122を異性体とみなすと事情は変ってくる。ただし1,1-ジメチル体(図4.4.3-27)の場合は、反転によって同一物27に変化するから、シクロヘキサンの場合と同様、平均化を認めても、認めなくても異性体数は1である。


図4.4.3

しかし1,2-ジメチルシクロヘキサンでは事情は異なる。まずトランス体では、2つのメチル基がともにエカリアル配座をとる異性体(図4.4.4-34ee、以下1,2-eeと略記)は反転によって1,2-aa異性体34aaになる。両者は2122と同じ意味で異なる物質である。したがって、その存在比は異なるはずであり、2つのメチル-水素-1,3-相互作用を含む34aaのほうがややエネルギーが高く、したがって平衡はかなり左によっているはずである。


図4.4.4

次にシス体を考える。35ea35aeはどのような関係にあるだろうか。メチル基の配座という点では2つは同じであり、したがってエネルギーも等しいから、上記の平衡は50:50となっているはずである。ここで興味深いのは両者の立体化学的関係である。同一物であるかどうかを模型を用いて調べてみるとよい。この点については後で詳しく学ぶことにする。


図4.4.5