3.3 立体配座と立体配置
3.3 立体配座と立体配置
第二章ではエタンやブタンの誘導体のC-C単結合のまわりの回転に伴う異性体をコンホマーと呼ぶ一方、メタンの置換体やエチレン置換体に関連して立体配置という語を用いた。立体配座と立体配置の区別は一見自明のようにみえる。すなわち単結合の回転によって生ずる立体異性は、立体配座が異なるだけで比較的容易に相互変換が可能であり、またコンホマーは単離できない。
これに対して立体配置が異なる2つの化合物、たとえばブロモクロロフルオロメタンの一対のエナンチオマー、マレイン酸とフマル酸等は別々の化合物であり、単離することができる。
だが、マレイン酸が加熱によってフマル酸に変化するとすれば、相互変換が可能かどうかで、立体配座と立体配置を区別するのはあいまいである。むしろ相互変換が容易に起こるか否かで分類するほうが実際的である。
言い換えれば、相互変換のエネルギー障壁が低い立体異性体はコンホマー(配座異性体)、相互変換のエネルギー障壁が高い立体異性体は配置異性体(configurational isomer)である。このエネルギー障壁の目安として、相互変換する異性体が単離可能であるための障壁、100 kJ/molを考えてよい。
C-C結合のまわりの回転は自由に起こるが、C-C結合のまわりの回転はp軌道の重なりよって禁じられていると説明した。しかしフマル酸がマレイン酸に異性化する反応では、C=C結合の回転もまた起こっていると考えられる。
C-C結合の回転とC=C結合の回転との差は、結局回転が起こるために分子が経由しなければならない遷移状態のエネルギーの高さ(基底状態に比べた)の差と見ることができる。ここで、二重結合のまわりの回転に対するねじれ角-エネルギー図を考えてみよう(図3.3.1)。

図3.3.1 幾何異性体の異性化のねじれ角-エネルギー図
今、Z形(図3.3.1, 23)のC=C結合の回転によりE形25が生成し、さらに25のC=C結合の回転によって23が再生する過程をNewman投影図でたどってみよう。
2つの平面が直交したとき(24 θ = 90°)、すなわちC=C結合が完全に切断したとき、分子のエネルギーは極大となり、さらに回転がすすんでE体25が生じたとき(25 θ = 180°)、分子は第二のエネルギー極小の状態にある。この極小値はZ形の極小値よりも低いのが普通である。θ = 180°からθ = 360°までの様子ははじめの1/2回転と類似している。