2.5 エタン誘導体の立体化学命名法

2.5 エタン誘導体の立体化学命名法

ゴーシュ、アンチ、ねじれ形、重なり形など、Newman投影図に基づいて配座異性を命名する種々の手段はあるが、これだけでは複雑な場合には不足である。たとえば、2,3-ジメチルブタンには以下に示す3つのねじれ形があるが、水素原子を主役にしないかぎり、これらはゴーシュ形とかアンチ形では定義できない。


図2.2.5

このような複雑な場合にも適用できる系統的な命名法が提案されている。この命名法ではまず、4つの原子を含む系A-C1-C2-B(C1、C2は必ずしも炭素である必要はないが、ここでは便宜上炭素原子としておく)のねじれ角(tortion angle)θを定義する。リガンドAおよびBはC1とC2に結合しているリガンドの中から、次の規則によって選ばれる。

  1. すべてのリガンドが異なっていれば順位規則に従い最優先のものを選ぶ。
  2. 2つのリガンドが等しいとき、残る1つを順位規則に関係なく選ぶ。
  3. すべてのリガンドが等しいとき、最小のねじれ角を与えるリガンドを選ぶ。

A-C1-C2-BをC1-C2方向から23のようにながめたとき、ねじれ角はAがBに重なるように回転させるために必要な回転角として定義される。この回転が時計回りのときねじれ角は正、反時計まわりのとき負の値を持つ。二面角fにははっきりした正負の値が定義されていなかったのと対照的である。

実際のエタン誘導体では、ねじれ角は必ずしも正確に60°の倍数になるとはかぎらないので、立体化学命名法としては、ねじれ角の値をそのまま示さない。円(360°のねじれ角)を図2.2.6-24~26に示すように幾つかの部分に分けて命名し、その組み合わせによって立体化学命名法をつくる。円の上半分はシン(syn)、下半分はアンチ(anti)、また26のpはペリプラナー(periplanar)、cはクリナル(clinal)を表わす。2426を組み合わせると図2.2.6-27が得られる。27は、符号を含めて8つの部分に分かれている。この要点をS2.5にまとめておいた。また、S2.3のブタンを例として、命名法の概要を図示したのでS2.5と共に参照されたい。


図2.2.6