2.4 コンホマーの存在比
2.4 コンホマーの存在比
エタンには重なり形とねじれ形の2つのコンホマーがある。ではエタンはこの2つのコンホマーの等量混合物といってよいだろうか。この表現は二重の意味で不適当である。第一に、エタンには無数の配座があり、コンホマーに対応する配座はその1つの場合にすぎない。第二に2つのコンホマーはエネルギー含量も、エネルギーが極大か極小かという点でも異なり、等量存在するとはかぎらない。
この間の事情は、ねじれ角一エネルギー図を化学反応の進行に伴う反応系のエネルギー変化を示す、いわゆる反応経路図の一種とみなすと理解しやすい。横軸の反応座標が図2.2.4のねじれ角に対応している。重なり型異性体は化学反応における活性錯体に相当する高エネルギー種であり、特別の場合を除いて単離できるほどの長い寿命を持たない。したがってエタンの場合にかぎらず、プロバンやブタンの場合においても、重なり形は回転の中剛に短時間現われるだけである。
エタンはほとんどすべて最も安定なねじれ形として存在していると考えてよい。ブタンの場合にはねじれ形が2種あるから、2つのコンホマーの混合物として存在していると考えられる。このような場合、異性体の存在比は2つの異性体の自由エネルギーの差ΔGで決まる。
一般に平衡A=Bにおいて自由エネルギー差ΔG(cal mol-1)=GB-GAと平衡定数K=[B]/[A]との間には、
ΔG=-2.303 RT log K
の関係がある。ここでRは気体定数(1.98 cal deg-1 mol-1)、Tは絶対温度である。
だが、そうであるからといって、ブタンをアンチ形とゴーシュ形に分離できるわけではない。一般に相互変換しうる2つの化合物、たとえば6と8を室温で別々に単離するためには、相互変換のエネルギー障壁―ブタンの場合では6や8と5や7のエネルギー差―が少なくとも100kJ/molなければならない。実際のエネルギー障壁は図2.2.3からわかるように,たかだか15~20kJ/molのオーダーであり、室温で相互変換は自由に起こっていると考えられる。