1.4 多重結合
1.4 多重結合
炭素原子は常に4価ではあるが常に4個の他の原子と結合するとはかぎらない。二重結合や三重結合では、炭素原子はそれぞれ3個および2個の他の原子と結合している。まず二重結合をつくる炭素原子を考えよう。2s12px12py12pz1電子配置の炭素原子が、2p軌道(たとえば2pz軌道)をそのままにして、残りの3つ、2s軌道と2p軌道2つで3つの同等な混成軌道をつくることもある。この混成軌道はその成り立ちから、sp2混成軌道と呼ばれる。sp2混成軌道は炭素原子を含む一平面上にあり、混成に関与しなかったp軌道はその平面に垂直である。sp2混成炭素原子の原子軌道を図1.4.1(b)に示した。
sp2炭素原子2個がそのsp2混成軌道1つずつを重ね合せてσ結合をつくるとエチレンの骨格ができる一2つのP軌道が平行に並ぶとここにも重なりが生じπ結合が生成する。すなわち、二重結合はσ結合、π結合各1本からつくられる。残る4つのsp2混成軌道に水素原子が結合するとエチレンC2H4が完成する。

図1.4.1 炭素原子の原子軌道(p軌道は示されていない)
炭素原子が三重結合をつくると、他の2個の原子と結合するだけとなる。このときは2s12px12py12pz1状態から2個の2p軌道をそのまま残して、2s軌道と2p軌道1つから2つの同等なsp混成軌道(図1.4.1(C))をつくる。sp混成軌道は互いに反対方向にのびている。言い換えれば、2つのsp混成軌道は互いに180゜をなしている。この2つのsp混成軌道の軸に対して、残る2つのP軌道はそれぞれ直交している。2個のsp混成炭素原子が各2つずつのsp混成軌道の重なりによってσ結合をつくり、さらに2組のp軌道の重なりによって2本のπ結合をつくり、残りの2つのsp混成軌道に水素原子が結合したものがアセチレンC2H2である。

図1.4.2 基本的有機化合物の構造