1.2 分子構造を決めるもの
1.2 分子構造を決めるもの
構造式2~5(図1.1.1)においても、紙面に示した構造式はこれらの化合物の中での原子の配列順を示しているにすぎないから、分子の実際の形を反映しているとはいえない。
では分子構造はどのようなパラメーターによって定義できるだろうか。2原子分子AB(図1.2.1-8)は、原子間距離(結合の長さ)rABだけで、3原子分子ABC(図1.2.1-9)では2つの原子間距離rAB、rBCおよび結合角∠BACの2つのパラメーターで定義される。原子間距離や結合角はどちらも結合をつくる原子に固有のパラメーターであり、化学結合論から予測できる一定の値を持つ。
![](content/images/1stereo/section1/fig_1_2_1.gif)
図1.2.1
ところが4原子分子ABCD(図1.2.1-10)では、3つの原子間距離rAB、rBC、rCD、2つの結合角∠ABC、∠BCDだけでは分子の形を定義することはできない。これらのパラメーターが決まっても、4個の原子が1平面上に並ぶかどうか、1平面上にないとすると、平面からずれた1個がどのような位置にあるかが決まらないかぎり、分子構造は一義的に決まらないからである。
図1.2.1-10の構造は第6のパラメーター、二面角(dihedral angle) φで定義できる。二面角は原子ABCを含む面1と、原子BCDを含む面2がつくる角度として定義できる(図1.2.2)。4原子分子の構造を決めるのに、原子間距離や結合角からは導き出せない新しいパラメーター二面角が必要であることは、次の2つのことを我々に教えてくれる。
- 分子をつくる原子は必ずしも平面的に並んでいるのではなく、3次元的な広がりを持ちうること。
- 分子構造は分子をつくる個々の原子や結合様式だけでは決まらないこと。
しかし、いうまでもなく分子構造を決めるのに決定的な役割を果すのは結合角である。そこで次節では有機化合物における結合角を支配する因子として、炭素原子の原子軌道を考えることにする。